やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
9
だがその瞬間、ビアンカは逞しい腕に抱き留められていた。恐る恐る見上げれば、愛して止まない漆黒の瞳が、ビアンカを見つめていた。
「やっと手に入れたのだ。逃してたまるか」
「ステファノ様……」
安堵と喜びで、涙がにじみそうになる。だがその時、ビアンカは妙な感覚を覚えた。生温かい液体が、下半身を濡らしていくのだ。まさか、とビアンカは思った。
(破水……!?)
「いかがした?」
ステファノが、顔をのぞき込む。ビアンカは、必死に訴えた。
「産まれます……!!」
ステファノは、血相を変えると、群衆に向かって叫んだ。
「この中に、産婆はおらぬかー!」
それから、二十四時間後。響き渡る力強い泣き声に、ビアンカはほっと胸を撫で下ろしていた。駆り出された初老の産婆も、同様である。
「王族の方のお子様を取り上げさせていただいたのは初めてですが、聖堂内での出産も、初めてですよ。どうしようかと思いましたがね」
汗を拭いながら、産婆は微笑んだ。
「元気な王女様でいらっしゃいますよ。お抱きになりますか?」
「ええ」
恐る恐る、抱かせてもらう。意志の強そうな黒い瞳が、ステファノそっくりだった。思わず、顔がほころぶ。
そこへ、待ちかねたのか、ステファノが聖堂内に駆け込んで来た。父母と、ゴドフレード・イレーネ夫妻も続く。
「無事産まれたか!」
「ええ。女の子でしたわ」
胸に抱いた赤ん坊を見せれば、ステファノは顔をくしゃくしゃにした。
「何と、可愛らしい。天使のようだ」
「……そうですわ、ステファノ様。私、この子の名前を考えましたの」
それは、突如ひらめいた名前だった。
「『レナータ』はどうかしら?」
「いい名だな」
「可愛いわ」
事情を知らない他の人々は、単純に頷いているが、ステファノはハッとした顔をした。
「『転生』か」
ええ、とビアンカは頷いた。
「理由は、二つございます……。一つは、私がこうして人生をやり直すという不思議な体験をしたからこそ、この子を授かれたから。そしてもう一つは、もしこの子が私と同じ体験をするようなことがあったとしても、自分の意志で力強く生きていってほしいという意味を込めました」
「できるであろう。ビアンカの子なのだ」
ステファノが、そっと抱き寄せてくる。聖堂の窓からは、まばゆい陽光が差し込んでいた。それはまるで、数奇な運命を経て結ばれた男女と、誕生した新しい生命を祝福しているようだった。
了
※お読みいただきありがとうございました。
「やっと手に入れたのだ。逃してたまるか」
「ステファノ様……」
安堵と喜びで、涙がにじみそうになる。だがその時、ビアンカは妙な感覚を覚えた。生温かい液体が、下半身を濡らしていくのだ。まさか、とビアンカは思った。
(破水……!?)
「いかがした?」
ステファノが、顔をのぞき込む。ビアンカは、必死に訴えた。
「産まれます……!!」
ステファノは、血相を変えると、群衆に向かって叫んだ。
「この中に、産婆はおらぬかー!」
それから、二十四時間後。響き渡る力強い泣き声に、ビアンカはほっと胸を撫で下ろしていた。駆り出された初老の産婆も、同様である。
「王族の方のお子様を取り上げさせていただいたのは初めてですが、聖堂内での出産も、初めてですよ。どうしようかと思いましたがね」
汗を拭いながら、産婆は微笑んだ。
「元気な王女様でいらっしゃいますよ。お抱きになりますか?」
「ええ」
恐る恐る、抱かせてもらう。意志の強そうな黒い瞳が、ステファノそっくりだった。思わず、顔がほころぶ。
そこへ、待ちかねたのか、ステファノが聖堂内に駆け込んで来た。父母と、ゴドフレード・イレーネ夫妻も続く。
「無事産まれたか!」
「ええ。女の子でしたわ」
胸に抱いた赤ん坊を見せれば、ステファノは顔をくしゃくしゃにした。
「何と、可愛らしい。天使のようだ」
「……そうですわ、ステファノ様。私、この子の名前を考えましたの」
それは、突如ひらめいた名前だった。
「『レナータ』はどうかしら?」
「いい名だな」
「可愛いわ」
事情を知らない他の人々は、単純に頷いているが、ステファノはハッとした顔をした。
「『転生』か」
ええ、とビアンカは頷いた。
「理由は、二つございます……。一つは、私がこうして人生をやり直すという不思議な体験をしたからこそ、この子を授かれたから。そしてもう一つは、もしこの子が私と同じ体験をするようなことがあったとしても、自分の意志で力強く生きていってほしいという意味を込めました」
「できるであろう。ビアンカの子なのだ」
ステファノが、そっと抱き寄せてくる。聖堂の窓からは、まばゆい陽光が差し込んでいた。それはまるで、数奇な運命を経て結ばれた男女と、誕生した新しい生命を祝福しているようだった。
了
※お読みいただきありがとうございました。