やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

7

 ビアンカとアントニオは、大急ぎで(ただしアントニオは厨房で洗い物をしてから)寮へ戻った。建物内は真っ暗で、エルマの部屋もしんと静かだ。どうやら、もう就寝したと思われた。

「杞憂だったかな」

 アントニオは、安心したようにため息をついた。

「念のため、ドアを見に行って来る」
「私も行きます!」

 行って見ると、裏庭に通じるドアは、案の定一部が破損していた。強風のせいだろう。

「この程度なら、大したことないな。風が吹き込んで寒いという季節でもないし……。今日はもう遅いから、明日にでも修理しよう」

 アントニオはそう言ったが、ビアンカはそこでふと気付いた。廊下の片隅に、ランタンが置かれていたのだ。中のロウソクは、まだ灯りが点っている。

(不用心な……。というより、ケチなエルマさんが、ロウソクを点けっぱなしにするなんて……?)

 ビアンカは、くるっと踵を返した。エルマの部屋へと走り、ドンドンと扉をノックする。

「エルマさん? 私です。大丈夫ですか?」
「どうした?」

 怪訝そうに、アントニオが追って来る。それを無視して、ビアンカは扉を叩き続けたが、応答はなかった。

「もう寝てるんじゃないのか」

 アントニオは、ビアンカを押し止めようとしたが、ビアンカはかぶりを振った。無性に、嫌な予感がしたのだ。思い切って、扉に手をかければ、果たして鍵は開いていた。

「エルマさん、失礼しますね……?」

 そうっと、扉を開ける。ビアンカは、息を呑んだ。中ではエルマが、ぐったりと横たわっていたのだ。側には工具箱が置かれ、中身が散乱していた。
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