やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 その後、騎士団寮の裏庭では、五羽の鶏が飼われることになった。エルマは予算をやりくりして、餌代その他の諸費用を捻出してくれたのだが、この数が限界だという。それでも十分ありがたく、ビアンカは彼女に何度も礼を述べた。

 ファビオは迅速に鶏を確保してくれたし、マルチェロは張り切って小屋を作ってくれた。今や、ビアンカの朝一番の仕事は、卵をゲットしてくることだ。

(今日は三個も獲れた! 大収穫だわ)

 その朝ビアンカは、機嫌良く厨房へ入った。五羽飼っているといっても、全ての鶏が毎朝産んでくれるとは限らない。人数分の卵は獲れないので、オムレツ案は諦め、代わりにスープを作ることにした。パンを浸して食べてもらうことで、栄養価アップを狙っている。

(パンもここで焼けると、本当は良いのだけれど……)

 この寮にはかまどがないので、市場で買って来るしかないのだ。一部の特権階級の家にはかまどがあるが、使わせてもらうには許可を得た上で、高い使用料を払わねばならない。なかなか、ハードルが高いのである。

 あれこれ考えながら卵を溶いていると、二階から皆が起き出して来る気配がした。ジョットが、何やらぶつぶつ言っている。

「……ったく。一晩中、ドアの修理とエルマの看病で終わったって?  せっかく二人きりにしてやったのに? 俺らが、気を利かせて?」

「倒置法を連発してまで非難することか?」

 言い返すのは、アントニオだ。

「大体、そうしてくれと頼んだわけじゃないだろう。ビアンカとは、ゆっくり距離を縮めたいと思ってる。……何と言うか、彼女には、男に傷つけられた経験があるんじゃないかって気がしてるんだ」

 ドキリとした。時間が巻き戻った話は、もちろんしていない。だから、テオのことなど知るはずはないというのに。アントニオは、なぜ察知したのだろう……。
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