やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「そう言ってくださるのは、嬉しいですけれど。でも私は、仕事を極めたいと思っていますし……」

 戸惑いながらもそう答えると、エルマは焦れったそうな顔をした。

「あんたみたいな貧相な小娘を好いてくれるような物好き、この先、他に現れると思うのかい?」

 表現はひどいが、エルマの眼差しは真剣だ。心から、ビアンカを思いやっているのがわかった。

「アントニオなら、上等だろうに。……そりゃ、要領は悪いし、手先は不器用だし、次男だから爵位は得られないし、おまけに薄給だけども……」

「おい。朝っぱらから、何を俺の悪口を連呼してるんだ!」

 不意に、厨房のドアが開く。ビアンカは、ドキリとした。アントニオ本人だったのだ。今の話を聞かれたかとひやひやしたが、エルマはけろりとしている。

「全部、本当のことだろ。あんたの修理したドア、使い物にならなかったよ。マルチェロにやり直してもらったさ」

 アントニオが一瞬つまった隙に、エルマはさっさと厨房を出て行ってしまった。

(う、気まずい……)

 どうリアクションしようか迷っていると、アントニオは、調理台に置かれたトレイを手に取った。

「出来た分か? 運んでやる」
「あ、ありがとうございます……」

 慌てて、礼を述べる。厨房を出て行くアントニオの後ろ姿を見つめながら、ビアンカは小さくため息をついた。

(いい人、なんだけど……)

 エルマにまで背中を押されても、ビアンカは踏み切れずにいた。まさしく、アントニオが見抜いた過去のトラウマが原因だった。

 テオの顔が脳裏に浮かぶ。結婚前は、彼も優しかった。でもいつからか、波長が合わなくなっていったのだ。ビアンカが、奥方として屋敷の切り盛りに精を出せば出すほど、テオは冷たくなっていった……。

 ビアンカは、テオの面影を振り払うように、調理台の掃除を始めたのだった。
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