やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
第五章 王子殿下がご指名なのに着て行くドレスがございません……って、私はシンデレラですか!?

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 それから一ヶ月が経過した。その晩、ビアンカとエルマは、食堂で二人きりの夕食を取っていた。

「今夜あたり、戻られますかねえ」

 ビアンカは、エルマに尋ねた。

「そう心配なさんな。連中なら、拍子抜けするくらいピンシャンして帰って来るに決まってるんだから」

 そう言うエルマも、どこか不安げだ。五人の騎士たちは、今、海賊討伐に出かけているのである。海沿いのこの地域は、定期的に襲来を受けるそうで、今回はかなり大規模だという。ボネッリ伯爵は、領内の騎士たちを総動員して対応に当たらせたのだ。

「大丈夫だって。あんたが朝食を食わせるようになってから、連中、血色も良くなったじゃないか」

 確かに、その通りである。少量とはいえ、卵とパンを朝に摂取するようになってから、五人の顔色は健康的になりつつある。アントニオによると、調練の際の集中力も上がったのだとか。

「発想は転換してみるもんだねえ。今までは、節約することばかり考えてきたけれど、思い切って出費してみるのもいいもんだ」

 エルマが、うんうんと頷く。

「でも、かまどを借りるのはやっぱり難しいですよね」
「あー……、それはさすがにねえ……」

 エルマは、かぶりを振った。パンを市場で買うのではなく、どこかの家のかまどを借りて焼かせてもらうのはどうかと、ビアンカは彼女に相談してみたのだ。

「あたしも、検討はしたんだけれど。かまどの使用料ってのは、べらぼうに高いんだよ。鶏の餌代もあるし、これ以上の出費は無理だね。すまないけれど」

「いえ。こちらこそわがままを言って、すみません」

 かまどの件は諦めて、ビアンカは窓の外を眺めた。今夜も、五人は帰らないのだろうか。二人きりの食卓は、何だか寒々しかった。

「心配ないって」

 ビアンカの不安を見透かしたように、エルマが言う。

「特に、アントニオとジョットの二人は、ああ見えて強いんだ。伊達に、団長と副団長を務めてはいないんだよ。アントニオは剣、ジョットは弓が得意でね」

 へえ、とビアンカは目を見張った。

「他の三人は、今ひとつ頼りないけどねえ。特にファビオは、気も弱いから」

 話しているうちに、エルマもだんだん不安が募ってきたようだった。

「あああ。一番心配なのは、あの子だよ。骸になって帰って来たりしたら、どうしよう。嫌だよう、献花料の予算を組むなんて……」

「止めてくださいっ。縁起でもない……」

 その時、外で物音がした。
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