やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

2

(帰って来た……?)

 外に飛び出して、ビアンカは目を見張った。見覚えのある馬車が、寮の前に停まっていたのだ。ボネッリ伯爵家のものだった。中からは、五人が次々と降りて来る。

「お帰りなさい!」

 ビアンカは、思わず駆け寄っていた。ただいま、と五人が微笑む。思ったよりは元気そうで、ビアンカはひと安心した。

「ボネッリ様の所へ、ご報告に上がっていたんだ。それで少し帰宅が遅れた」

 アントニオが、説明する。

「わざわざ、ここまで送ってくださると仰ってね」

 ビアンカは、ボネッリ家の御者に、丁重に挨拶した。エルマも、寮から出て来た。

「まあまあ、わざわざお送りいただき、ありがとうございます。あんたたち、無事で何よりだわ」

「エルマ、久しぶりじゃん。まだ生きてたんだ?」

 ジョットが、いつもの調子でおどける。エルマは、無言で彼の脛を蹴り飛ばした。

「痛てぇ! 大仕事を終えて帰って来たんだから、優しくしてくれよな。俺たち、一応怪我人なのよ」

 驚いてよく見れば、五人ともあちこちに傷を負っていた。特にアントニオなどは、左腕の大部分が包帯で覆われている。

「大丈夫なんですか!?」
「応急処置はしてもらったけど。結構な深手だったからな」

 アントニオは、顔をゆがめながら左腕を押さえた。

「すぐに、手当てを……」

 言いかけてビアンカは、どこからか妙な音がするのに気付いた。「コッコ、コッコー」という声だ。どうやら、発生源は馬車の中のようだった。

「あ、そうそう! 海賊被害に遭った地域の人たちから、お礼の品をたくさんもらったんだよ」

 ジョットが、ぽんと手を叩く。

「うちは今、鶏を飼ってるけど餌が不足しててって話したら、飼料をどっさりくれたんだ」
「で、これならもっと増やしても大丈夫かなって思って、早速追加で鶏を分けてもらってきた」

 ファビオが、補足する。まあ、とビアンカは目を輝かせた。

「ありがたいわ! これで明朝から、オムレツを作ってあげられるわね!」

 ボネッリ家の御者が、鶏の入ったケージを馬車内から運び出す。ビアンカは、夢中で駆け寄った。

「ようこそ、我が寮へ! 新鮮な卵、たくさん産んでちょうだいね!」

 アントニオが背後で小さく「手当て……」と呟いていたが、うっとりとケージに頬ずりするビアンカの耳には入らなかったのだった。
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