やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 それから三週間経った、とある朝。ビアンカは、鶏たちから確保した卵を抱えて、機嫌良く裏庭を歩いていた。

(エルマさん、そろそろ帰られるかしら?)

 エルマはパンを焼きに、ボネッリ邸にかまどを借りに行っているのだ。何と、ボネッリ伯爵は、使用料を無料にしてくれたのである。ビアンカは知らなかったが、五人は海賊討伐において、相当の成果を上げたそうなのだ。以前の討伐の時と比べて、その活躍ぶりは雲泥の差だったらしい。それで伯爵は、今後の期待も込めて、この騎士団寮に特権を与えてくれたのだ。

(パンの到着に合わせられるよう、オムレツの方も下ごしらえしておきましょう)

 エルマがパンを焼きに出かけ、ビアンカが卵を集めるという作業分担は、自然に決まった。最初の一ヶ月で、ビアンカが卵の捕獲に、すっかり慣れたからだ。鶏たちも、気のせいかビアンカに懐いているように感じる。

「大収穫だな」

 そこへ、アントニオが顔をのぞかせた。ハイ、とビアンカは元気良く答えた。

「ルチアとスザンナが、最近よく産んでくれるんですよ」

 ビアンカは、鶏たちにそれぞれ名前を付けているのだ。だがアントニオは、妙な顔をした。

「見分けが付くのはすごいと思うけど……。確かそれって、妹さんたちのお名前じゃなかったっけ?」
「そうですよ? 可愛いこの子たちには、親愛の情を示したいんです」
「はあ……。そういう考え方もあるのかな」

 今ひとつ腑に落ちない様子で、彼は頷いた。

「めんどりでよかった。雄なら、俺たちの名前を付けられてそうだ」

 ぼそりと呟くと、アントニオはひょいと手を伸ばしてきた。

「羽毛まみれだ」

 アントニオが、ビアンカの髪に付いた鶏の毛をつまみ取ってくれる。その腕には、いつの間にか見違えるほどの筋肉が付いていた。卵とパンの摂取量が増えたおかげだろう。ビアンカは、満足でいっぱいだった。

(これなら、ステファノ殿下がいらっしゃっても、自信を持って会わせ申し上げられるわ……)

 ステファノの訪問は、もう一週間後に迫っているのだ。
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