やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

6

 翌朝ビアンカは、やや緊張しながらボネッリ伯爵邸を訪れた。出迎えた執事に、籠を手渡す。

「いつもかまどを使わせていただき、ありがとうございます。ささやかですが、皆様で召し上がってくださいませ」

 籠の中身は、ゴーフルである。さすがに、無料でかまどを使わせてもらうのは気が引けるので、時々こうして差し入れをしているのだ。

「こちらこそ、いつもお気遣いありがとうございます」

 執事は丁重に礼を述べて籠を受け取ると、応接間へ案内してくれた。一歩踏み入れて、ビアンカは目を見張った。そこには、ボネッリ伯爵だけでなく、父・カブリーニ子爵の姿があったのだ。

「おお、ビアンカ嬢。ようこそお越しくださいました」

 ボネッリ伯爵は、にこやかにビアンカを出迎えた。

「ご無沙汰しております。いつもご配慮をありがとうございます。特にかまどの件では、本当に助かりました」

「堅苦しい挨拶はよろしい」

 伯爵は、ビアンカにソファを勧めた。向かい合うと、彼はビアンカをじっと見つめた。

「今日おいでいただいたのは、他でもない。あなたに、礼を申し上げたかったのです。二ヶ月という短い間で、あなたは本当に数々の改革をしてくださった。おかげで寮に住む騎士たちは、すっかり体格が良くなり、仕事でもめざましい成果を上げています。先日の海賊討伐だけでなく、領内からは彼らへの感謝の声が、次々と上がっているのですよ」

「い、いえ、とんでもない!」

 ビアンカは、慌ててかぶりを振った。

「騎士の皆様が活躍なさっているのは、彼ら自身の鍛練の成果です。それに、改革と仰いますが、かまどをお貸しくださったボネッリ様や、予算を工夫してくださったエルマさん、その他色々な方々のご協力があってこそです。私は、大したことはしておりません」

「そう謙遜なさるな」

 ボネッリ伯爵は、いっそうニコニコした。

「いや、実はですね。我が領の騎士たちが、短期間でみちがえるように肉体改造を成し遂げたという噂が、いつの間にか広まりましてな。何と、王都まで届いたようなのです」

「ええ!?」

 ビアンカは、仰天した。伯爵が、身を乗り出す。

「ステファノ殿下が、間もなくこちらへ来られることはご存じですね? 殿下は噂をお聞きになって、ビアンカ嬢に興味を持たれたそうなのです。ステファノ殿下がお越しの際は、我が屋敷で歓迎の宴を催す予定です。ついては、是非ビアンカ嬢にもご出席いただきたい」
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