やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「わ、私が、でございますか!?」

 ええ、とボネッリ伯爵が頷く。

「ステファノ殿下は、あの通り武芸に熱心なお方です。体作りには、たいそうご興味をお持ちだそうで。それで、ビアンカ嬢から指南をいただきたいとのことなのです」

「そ、そんな……」

 やり直し前の人生で、たまたま兵役経験のある男性に教わった知識を、総動員しただけのことなのに。王子殿下に指南だなんて、恐れ多すぎる。

(というか、元がガリガリだったから、単に伸びしろが大きかっただけよ……!)

 パニックになっていると、父が口を挟んできた。

「まあまあ。突然のことに戸惑うのはわかるが、王子殿下じきじきのご指名を無視するわけにはいかんぞ? ボネッリ様もご同席くださるし、案じることはない」

 案じることはない、という表情ではない。小心者の父の顔には、焦りと緊張しか浮かんでいなかった。とはいえ、ここは謹んでお受けする以外にない。ビアンカは、ボネッリ伯爵を見つめて姿勢を正した。

「身に余る光栄でございます。精一杯、やらせていただきます」
「ありがとう。助かります」

 伯爵は、ほっとしたような笑みを浮かべた。

「私からは以上ですが……、久々に、父娘で話でもなさいますか?」
「そうですねっ」

 やけにせかせかと、父が答える。

「ビアンカ。ここから寮まで、うちの馬車で送ろう。その間に、積もる話でもしようか」

 そう言う父の目は、泳いでいた。

(お父様、何か隠してらっしゃるのでは……?)

 ビアンカは、無性に嫌な予感がしたのだった。
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