やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

8

「あああ。何だか、大事になってしまったなあ」

 一緒に馬車に乗り込むなり、父は頭を抱えた。

「粗相のないよう、頑張りますわよ」
「いや、そうではなくてだな……」

 父は、口ごもった。

「王子殿下にお目にかかるのに、その使用人服ではいかんだろう」
「ああ、それはそうですわね」

 騎士団寮には、料理番として働くのに必要な、最低限の服しか持参していないのだ。一度カブリーニ邸へ戻ろうか、とビアンカは思った。どっちみち、ヘアメイクや着付けをしてもらわないといけない。久々に、ジェンマの世話になるのだ。

「社交界デビューに向けて、作っていただいたドレスにいたしましょう。どれが、よろしいかしら……」

 貧乏なりに、一応何着か作ってもらったのだ。だが父は、突如ビアンカの方を向き直ると、深々と頭を下げた。

「ビアンカ、すまぬ! お前が我が家に置いて行ったドレスは、全てサイズを直してしまったのだ」
「――はい!?」

 さすがに、ビアンカは面食らった。申し訳なさそうに、父が続ける。

「ほら、ルチアの社交界デビューが迫ってきているだろう? お前は料理番として働くと言っているし、もう必要ないかと思ってな」

 確かに、今の生活でドレスが必要になることはない。上の妹・ルチアとは年子なので、彼女のデビュー準備を進めるのもわかる。だが、問題は……。

「ルチアのサイズにしてしまったのでは、私は着れないじゃございませんの!」

 ビアンカは、大声を上げていた。ルチアは、ビアンカ以上の痩せぎす体型なのだ。しかも、騎士たちと同じメニューを食べていたせいで、最近のビアンカはとみに体格が良くなっている。とても、同じサイズが着られるとは思えなかった。

「すまぬ」

 再び、父が謝罪する。

「それで、お前のサイズに戻そうと、仕立屋に頼もうとしたのだが。今は予約が立て込んでいるらしいのだ。とても、一週間では無理だと言われた……」

 ビアンカは、愕然とした。

(王子殿下にお目にかかるのに、着て行くドレスがない……!?)
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