やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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「当時、コンスタンティーノ三世陛下は、二十六歳。たまたまこの地を訪れた彼は、パッソーニ伯爵夫人クラリッサを見初めた。何としても愛人にしたいが、さすがに夫持ちでは難しい。それで陛下は、パッソーニ伯爵……俺の父親に、無実の罪を着せ、投獄した。そして妻クラリッサを、王都へ連れ帰ったんだ。三歳と一歳という二人の子供たち……兄と俺から引き離してな」

 想像を絶する過去に、ビアンカは言葉を失った。

「残された兄と俺は、後見人になってくれた伯父に育てられた。今は、兄がパッソーニ家を継いでいる。さすがの陛下も、爵位を奪うことまではしなかったからな……。でも」

 アントニオは下を向いた。

「父は、牢獄内で早世した。そして、母が国王陛下の寵愛を受けたのも、ごく僅かな間だった。移り気な陛下は、すぐに別の女性に心惹かれ……。新しい寵姫は、母の存在を煙たがった。こうして陛下の命で、母は強制的に修道院へと送られた。最後まで、兄と俺のことを気にかけていたらしいが……」

「ごめんなさい」

 ビアンカは、思わず呟いていた。それなら、国王陛下を恨んでも当然だ。それも、一歳で母親を奪われたなんて。顔も覚えていないに違いない……。

「知らなかったんだから、君が謝る必要はない。でも俺は、コンスタンティーノ三世陛下だけでなく、王室全体が憎くて仕方ないんだ。どうせ息子たちだって、同類に決まってる……。だから王室には、どんな形にせよ関わるつもりはない」

 ゴドフレード王太子とステファノ王子は、父王とは違うのではないかと思ったが、今の話を聞いた後で口にするのはためらわれた。ビアンカは、黙って頷いた。

「まあでも、これは俺の個人的な話だから。君や他の皆を巻き込むのは間違ってる。だから、絵のモデルは引き受けるよ」

「いいんですか?」

 ビアンカは、目を見張った。

「ああ。さすがにあれは、大人げなかったと思ってる」

 言いながら、アントニオは立ち上がった。

「エルマにも謝っとくよ。年齢的に、彼女が王室を敬うのは仕方ない……。それにしても」

 アントニオは、エルマに打たれた頬を押さえた。

「婆さんとは思えないほどの腕力だな。君、今後エルマの食事は別メニューでいいぞ? 俺たち並みにマッチョになりつつある」

 冗談めかして言うと、アントニオは建物内に戻って行ったのだった。 
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