やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 こうして久々にドレスアップしたビアンカは、ボネッリ伯爵邸へと到着した。伯爵夫妻は、一張羅らしき衣装に身を包んで、出迎えてくれた。

「ビアンカ嬢、よく来てくださった。今夜は、よろしく頼むよ」
「期待しているわね」

 夫妻は口々にそう述べたが、王子殿下の来訪という事態に、緊張しきっているのは明らかだった。特に伯爵の方は、「接待費が……。いや、これも領主の務め……」と、うつろな目で呟いている。一見きびきびと動きつつも、手と足が一緒に出ていて、やはり父の友人だなとビアンカは実感したのだった。

 ホストはそんな調子だったが、ステファノ王子を迎えての晩餐会は、どうにかつつがなくスタートした。ステファノは、側近の貴族や騎士、その奥方たちを大勢連れて来ていた。ビアンカは末席だが、遠くからでも、王子の姿はよく見て取れた。

(相変わらず、素敵でいらっしゃるわ……)

 今日のステファノは、レースと金糸の刺繍をあしらった、濃紺の上着を着用していた。紺色は、彼の燃えるような赤い髪を引き立てる上、浅黒い精悍な顔立ちにも似合っている。ビアンカは、思わず惚れ惚れと見とれた。考えてみれば、今は二年前に遡ったわけだから、ステファノとデビュタントボールで出会った同じ頃ではないか。

(懐かしいわ……、じゃなくて)

 にやけている場合ではない。この晩餐会が終わったら、ビアンカはステファノと、個別に話す機会を設けられているのである。ご満足いただけるような話をしなくては、とビアンカは意気込んだ。帳簿から再現した二ヶ月分の寮のメニューと、チロが描いてくれたアントニオのビフォア・アフター絵も、ちゃんと持参している。これを基に、ご説明申し上げるのだ。

 頭の中でシミュレーションしていたその時、ビアンカはふと視線を感じた。その源を辿って、ビアンカはぎょえっと声を上げそうになった。

(――テオ様!?)

 ステファノに随行した面々の中には、何と元夫・テオの姿があったのだ。なぜか、ビアンカを凝視している。
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