やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

3

 ビアンカは、唇を噛んだ。確かに、根拠と言われれば、何も示せない。それに、この知識を伝授してくれたニコラは、平民だった。高位の貴族たるドナーティらに、このメニューが受け入れられないのは、ある意味当然だろう。

「結果的にと申すが、その結果をもたらしたのは、このビアンカ嬢ではあるまいか」

 沈黙を破ったのは、ステファノの凜とした声だった。

「短期間で、騎士らを変化させたのは、紛れもない事実……。奇跡を起こすには、常識を飛び越える必要がありはしまいか」

「では、このメニューに従われると?」

 ドナーティが、眉をひそめる。

「私は、反対ですな! そもそも私は、この令嬢が真に騎士たちを思いやっているのか、怪しいと思っております」

「どういう意味ですの!」

 さすがにビアンカは、気色ばんだ。ボネッリ伯爵も、顔色を変える。

「ドナーティ様。ビアンカ嬢は、騎士団のために誠心誠意尽くしており……」

「そうでしょうか」

 ドナーティは、冷たく遮った。

「ステファノ殿下のご関心を引きたいがために、目立つ行動に出た、という考えもできますよ。何せ、年頃の令嬢ですからな。しかも、ご実家はあまり裕福でないと聞いている」

「そんな……。違います!」

 ビアンカは、思わず立ち上がって叫んでいた。ステファノに憧れていたのは事実だが、そんな大それたことは考えていない。ましてや、騎士団寮での仕事を利用するなんて。

「ドナーティ。口を慎め」

 ステファノもたしなめたが、ドナーティの勢いは止まらなかった。

「では、彼女の今夜の装いは何なのです? ステファノ殿下のカラーで固めておられるではありませんか。殿下の気を引こうという、何よりの証拠では?」

 ビアンカは、ぎょっとした。思わずステファノを見つめれば、彼と目が合った。燃えるような赤い髪に、漆黒の瞳……。今日の自分のドレスは、赤地に黒いリボンが飾られたものだ。

(うかつだった……)
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