やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

7

 アントニオは、ビアンカを裏庭へ連れて行った。

「何かあったのか?」

 並んで石垣に腰かけると、彼はビアンカの顔をのぞき込んだ。

「上手くいった、と言っている割には、表情が浮かない。嫌なことでもあったのか」

 適当に誤魔化すことは、できそうにない雰囲気だった。かといって、ステファノとドナーティの賭けについては、やはり打ち明けたくない。ビアンカは、迷った末こう答えた。

「まあ、多少は。あのメニューに反感を持つ人もいましたし、うちが貧乏ということで馬鹿にする人も。でも、深く気にしていませんから」

「そうか……?」

 完全に信じている風でもなかったが、アントニオはひとまず頷いた。彼はしばらく黙っていたが、やがて意を決したようにビアンカを見つめた。

「本来は、こんなタイミングで言うつもりはなかったんだけれど……。さっきの君の話を聞いて、踏ん切りが付いた。もし君が本当に王宮へスカウトされるようなことがあれば、その前に話しておきたいことがある」

「スカウトなんて、あり得ませんて! あれは、ジョットさんのいつもの冗談でしょう」
 
 本気にしたのか、とビアンカは目を剥いた。だがアントニオは、大真面目だった。

「いや、冗談とは言ってられないかもしれないぞ? 殿下は、あのメニューに興味を持たれたのだろう? おまけに、実際に君を呼んで作らせようとしている。可能性はあるぞ」

「まさか……」

「だから」

 アントニオは、ビアンカの言葉を遮った。澄んだアメジスト色の瞳をいっぱいに見開いて、ビアンカを見つめる。

「今のうちに言いたい。君が好きなんだ。結婚してくれないか」

 ビアンカは、絶句した。いつかは、気持ちを伝えられる日が来るのではないかと思っていたけれど。

(それも、結婚か……)
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