やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

2

 急いで広間を訪れると、ステファノはビアンカを見て、おやという顔をした。

「また、昨夜とはずいぶん印象が違うな」
「私は、料理番でございますから」

 今日のビアンカは、簡素な使用人服をまとい、化粧はしていない。……そして、とある理由から、髪はヘッドスカーフで完全に覆っている。ステファノが驚くのも、当然だった。

「そうか。ドナーティの言葉を気にしているのかと思った……。昨夜のドレスは、とてもよく似合っていたから、残念な気もするが……。まあよい。座れ」

 何とステファノの隣の席を示され、ビアンカは動揺した。王族の隣に座るなど、相当の身分の者でないと許されない。一介の料理番であるビアンカには、あり得ない名誉であった。室内には、他に給仕が一人いるだけで、ますます緊張する。

「料理について、説明して欲しかったのだ。これらの料理が、筋肉作りにどういう効果をもたらすのか」

 ビアンカが着席すると、ステファノは穏やかに告げた。今日の彼は、ゆったりしたグレーのチュニック姿だ。湯浴み後のせいだろう。間近で見る艶やかな赤い髪は、まだ少し濡れていて、何だか色っぽい。

「承知しました」

 ビアンカは、かしこまって答えた。早速ステファノが、いそいそと皿を指し示す。

「チキンのパテはわかる。昨日、聞いたからな。だが、これは? こんな物が、筋肉を作るというのか?」

 ステファノは、パテに添えられた揚げアーモンドに疑問を抱いたようだった。

「アーモンドには、筋肉作りというよりも、疲労を回復する成分が含まれているのです。特に殿下は今、体を動かした後でいらっしゃいますので、最適かと存じます」

 なるほど、とステファノが頷く。

「ちなみに、そら豆にもアーモンドと同様の成分が含まれております」

 ビアンカは、そら豆のスープを示した。ステファノは、スープを一口すすると、満足げに頷いた。

「美味い。塩加減が絶妙だな」
「ありがたきお言葉にございます」

 ビアンカは、神妙に礼を述べた。寮の皆も、ビアンカの作る食事を褒めてくれるが、その時とは比べものにならない喜びが湧き上がってくる。

「そして……。ああ、果物を肉と共に摂取すると、効果的なのであったな」

 ステファノは、皿に盛られたイチジクを見やった。

「よく覚えていたであろう?」

 教師に勉強の成果を報告する子供のように、ステファノが得意げに微笑む。男らしい精悍な顔立ちなのに、その笑顔はまるで少年のようで、ビアンカはドキリとするのを抑えられなかった。
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