やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?
6
テオが目を剥くのも当然だ。ビアンカは昨夜、髪をバッサリ切り落としたのである。長い髪は、貴族令嬢の証だ。肩に付かないくらいの長さにしてしまうことで、ビアンカは、料理番として生きていくことを表明したのである。もちろん、平民女性だから髪が短いというわけではなく、彼女たちだって結えるくらいの長さは持っている。それでもあえて断髪したのは、王子に取り入りたいのではないかという、あらぬ邪推を払拭するためだった。
「ビアンカ……」
呆然としつつも、テオは何かを言おうとした。だがその時、別の声がした。
「ビアンカ嬢!?」
深みのある低い声に、ビアンカはドキリとした。振り返れば廊下の先に、ステファノが立ち尽くしているではないか。
「その髪は……!」
ステファノは、すごい勢いで駆け寄って来た。蒼白な顔をしている。
「ドナーティのせいか? 彼がそうしろと?」
「違います!」
ドナーティの発言がきっかけになったのは確かだが、彼にさせられたわけではない。あくまでも、ビアンカの意志だ。
「だが、彼が余計なことを申すから、気にしたのであろう」
ぎりっと、ステファノが歯ぎしりする。ビアンカは、驚愕した。ステファノの眼差しは、怒りに燃えていたのだ。
「ドナーティ……。女性に髪を切らせるほど思いつめさせるとは、許さぬ。降格処分だ。宮廷へも出入りを禁ずる!」
「ちょっ……、お待ちくださいまし! ドナーティ様のせいではありません!」
ビアンカは慌ててステファノに取りすがったが、彼は耳を貸そうとしなかった。
「これは、私が決めたことだ……。ああ、チェーザリ伯爵」
ステファノは、チラとテオを見やった。
「そなた、そういえば昨日、ビアンカ嬢に狼藉を働いておったな。ついでにそなたも、宮廷出入り禁止だ」
「はい!? 私も、でございますか!?」
テオがすくみ上がる。何事か弁明しかける彼を無視して、ステファノは切りそろえられたビアンカの髪に触れた。切なそうに、だがどこか愛おしそうに撫でる。
「美しい黒髪が……。二度と、このような真似はいたすなよ?」
「承知、しました……」
『美しい』というフレーズがぐるぐる回る。髪という一部分についてだとわかっていても、嬉しくて仕方なかった。
「早く伸びるとよいな」
「ええ」
横でテオが、「髪が短くなっても僕は気にしないぞ」と必死に訴えていたが、もちろんビアンカの耳には入らなかったのだった。
「ビアンカ……」
呆然としつつも、テオは何かを言おうとした。だがその時、別の声がした。
「ビアンカ嬢!?」
深みのある低い声に、ビアンカはドキリとした。振り返れば廊下の先に、ステファノが立ち尽くしているではないか。
「その髪は……!」
ステファノは、すごい勢いで駆け寄って来た。蒼白な顔をしている。
「ドナーティのせいか? 彼がそうしろと?」
「違います!」
ドナーティの発言がきっかけになったのは確かだが、彼にさせられたわけではない。あくまでも、ビアンカの意志だ。
「だが、彼が余計なことを申すから、気にしたのであろう」
ぎりっと、ステファノが歯ぎしりする。ビアンカは、驚愕した。ステファノの眼差しは、怒りに燃えていたのだ。
「ドナーティ……。女性に髪を切らせるほど思いつめさせるとは、許さぬ。降格処分だ。宮廷へも出入りを禁ずる!」
「ちょっ……、お待ちくださいまし! ドナーティ様のせいではありません!」
ビアンカは慌ててステファノに取りすがったが、彼は耳を貸そうとしなかった。
「これは、私が決めたことだ……。ああ、チェーザリ伯爵」
ステファノは、チラとテオを見やった。
「そなた、そういえば昨日、ビアンカ嬢に狼藉を働いておったな。ついでにそなたも、宮廷出入り禁止だ」
「はい!? 私も、でございますか!?」
テオがすくみ上がる。何事か弁明しかける彼を無視して、ステファノは切りそろえられたビアンカの髪に触れた。切なそうに、だがどこか愛おしそうに撫でる。
「美しい黒髪が……。二度と、このような真似はいたすなよ?」
「承知、しました……」
『美しい』というフレーズがぐるぐる回る。髪という一部分についてだとわかっていても、嬉しくて仕方なかった。
「早く伸びるとよいな」
「ええ」
横でテオが、「髪が短くなっても僕は気にしないぞ」と必死に訴えていたが、もちろんビアンカの耳には入らなかったのだった。