やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

8

(ステファノ殿下は、どんな女性をお妃に迎えられるのかしら……?)

 やり直し前の人生で、ビアンカは十八歳まで生きた。当時ステファノは二十一になっていたが、まだ婚約者は決まっていなかった。一体どうするつもりだろうと、誰もが興味を抱いていたものである。

「楽しみでございますわね。ゴドフレード殿下ご夫妻にも、間もなくお子様がお産まれになりますし、パルテナンド王室はきっと賑やかにおなりですわ」

 一抹の寂しさを押し殺して、ビアンカは明るい声を上げた。ゴドフレード王太子は、すでにイレーネという妃を娶っているのだ。彼女は、現在懐妊中である。

「国王陛下も、さぞや楽しみになさっておいでなのでしょうね」

 コンスタンティーノ三世は、最近体調不良が伝えられている。だからこそ励まそうとしたのだが、ステファノは、なぜか皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「孫の誕生よりも、ご自身の今後について、お考えいただきたいものだが。いつまでも王の座にしがみついておられるのでは、国民も迷惑であろう」

「そのような……」

 ビアンカは、返事に困った。確かにコンスタンティーノ三世は、昔から女遊びにかまけてばかりで、良い国王とは言えなかった。特に体調を崩してからは、政務もほとんどこなせていないと聞いている。それにしたところで、実の息子であるステファノの口からそんな言葉が飛び出すとは、思わなかった。

「早く兄上の治世になれば、パルテナンド王国も安泰であろうに……。まあ、それはよい」

 ステファノはかぶりを振ると、デザートの皿に手を伸ばした。梨の甘煮を、美味そうに口にしている。ビアンカは、何だか切なくなった。明日は一日、武芸試合が開催されるため、ビアンカが彼に食事を作るのは、今日が最後なのだ。そしてデザートの段階まで来たということは、ステファノとの時間が終わりを告げることを、意味している。

「実に美味かった。ほどよい甘さであるな」

 ステファノは満足そうにスプーンを置いたが、ビアンカはおやと思った。煮梨は、半分残されていたのだ。美味しいとは言ってくれたが、本当は口に合わなかったのだろうか。
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