やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

10

 ボネッリ邸からカブリーニ邸へ向かう間も、ビアンカの動揺は収まらなかった。

(よく考えたら、あれは間接キスではっ)

 ステファノは、自分が使っていたスプーンをビアンカに用いた。しばらく経ってから、ビアンカはそのことに気が付いたのである。

(思いがけないご褒美をいただいた気分だわ)

 これを一生の思い出にしよう、とビアンカは胸に誓った。ステファノが王都へ帰った後は、自分は再び、騎士団寮の一料理番として生きていくのだ。

 やがて、カブリーニ邸へ到着する。送ってくれたボネッリ邸の御者に挨拶をして、ビアンカは実家の門をくぐった。そして、仰天した。玄関の前には、両親と妹たちが勢ぞろいしていたのである。

「お帰りなさい!!!」

 全員が、一斉に叫ぶ。思わぬ歓迎ぶりに、ビアンカは仰天した。

「た……、ただ今戻りました。一体、何事です?」
「百聞は、一見にしかずですわ! お姉様、早くいらしてくださいませ!」

 スザンナが、ビアンカの腕を取り、屋敷内へと誘う。一歩足を踏み入れて、ビアンカはおやと思った。廊下に、大小二つの箱が積まれていたのだ。丁重に梱包されており、プレゼント風である。

「ご覧くださいまし」

 大きい方の箱を、ルチアが意気揚々と開ける。ビアンカは、目を見張った。入っていたのは、黒髪のウィッグだったのだ。一目で、高級品と見て取れる。

「こちらもですわ」

 スザンナが、小さい方の箱を開ける。ビアンカは、ますます仰天した。そこには、ティアラが収められていたのだ。名前は知らないが、明るいブラウンの石があしらわれている。

「これは、一体……」

 戸惑いながら家族の顔を見回すと、母がビアンカの手を取った。満面の笑みを浮かべている。

「ステファノ殿下からの贈り物よ。家臣が失礼な言動をしたせいで、ビアンカ嬢に髪を切らせるはめになり、申し訳なかったと。そのお詫びの品ですって」
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