やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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 その時、トランペットの音が鳴り響いた。ステファノが会場入りしたのだ。待機していた楽師たちも、一斉に演奏を始める。

(そうだわ。殿下に、贈り物のお礼を申し上げねば)

 今伺っていいものか迷っていると、ちょうどボネッリ伯爵が現れた。

「ビアンカ嬢。お席をご案内しましょう」
「席? 一般の見物席ではないのですか?」

 ビアンカは戸惑った。

「はい。あなたには、特別にお席をご用意しております」
「そうなのですか……? じゃああなたたち、見物席へ行っていてちょうだい。お行儀良くするのよ」

 ビアンカは、妹たちに告げた。

「大丈夫ですわよ」
「エルマさんと一緒に、応援しておりますわ」

 エルマが一緒なら、安心だろう。ビアンカは彼女らと別れ、ボネッリ伯爵に従った。

 だが、派手な演奏が鳴り響く中、伯爵に付いて歩くうち、ビアンカはぎょっとした。彼が向かっているのは、ステファノとその側近たち専用のスペースだったのだ。一般の見物席とは異なる高台の上に設けられており、文字通り『高みの見物』である。

「こちらでございます」

 恭しく席を示されて、ビアンカはさらに仰天した。何と、ステファノの隣席だったのである。周囲には、高位の貴族らや王立騎士団の騎士たちが、厳かに控えている。これでは、まるで……。

(お妃の位置じゃない!)

 ビアンカが口をぱくぱくしている間に、ボネッリ伯爵は自分の役目を終えたとばかりに、踵を返してしまった。ビアンカは、恐る恐るステファノに話しかけた。

「ご機嫌麗しゅう存じます。殿下、昨日は身に余る贈り物をいただき、ありがとうございました」
「当然の詫びをしたまでだ」

 ステファノはけろりと答えるが、先ほどからドナーティの視線が痛いのだが。

「あの、ところで私などがこのような場所に座らせていただいて、よろしいのでしょうか」

「この試合の結果次第で、そなたのメニューを王立騎士団内に取り入れるか否かが決まるのだ。この試合に関わる重要人物として、共に鑑賞すべきであろう」

(理屈が通っているんだか、いないんだか……)
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