やり直しの人生では料理番の仕事に生きるはずが、気が付いたら騎士たちをマッチョに育て上げていました。 そしてなぜか、ボディビルダー王子に求愛されています!?

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(どうして、ステファノ殿下が試合に加わられるのよ……!?)

 一瞬仰天したビアンカだったが、ややあって合点した。ステファノは、どうしてもアントニオを王立騎士団に引き抜きたいのだろう。だから挑発して、本気にさせようとしているのだ。ステファノは、パルテナンド王国一の剣豪として知られる。その彼を相手に力を発揮すれば、アントニオは否が応でも王立騎士団へ入らざるを得なくなるだろう。

(王室を憎むアントニオさんを入れるのが、いいことなのかはわからないけれど……)

 悩むビアンカをよそに、家臣たちは慌てふためいている。

「殿下、お止めくださいませ!」
「観戦のみではなかったのですか。危険でございます!」

 だがその言葉に、ステファノは眉を吊り上げた。

「危険? 私がこの男に負けると申すか」
「いえ、そのような……」
「どうしても案ずるならば、そなたらが背後に控えておればよい。不要とは思うがな」

 ステファノはそこで、アントニオの方を向き直った。

「どうだ、パッソーニ殿。受けて立つか?」
「謹んで、お受けいたします」

 アントニオは、神妙に答えたものの、その瞳には激しい怒りが宿っていた。ビアンカは、不安を抑えきれなかった。母を強奪し、家庭を崩壊させた国王のことを、アントニオは恨んでいる。その恨みは、息子であるステファノにも及んでいるのだ。まさかとは思うが、この試合に乗じて、ステファノに危害を加えはしまいか。

(アントニオさんはそんな人じゃないし、殿下は強い剣士でいらっしゃるから、大丈夫でしょうけれど……)
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