元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

第三十四話


「もうひとつの前世?」

 素っ頓狂な声を上げたアンナに、足早に廊下を進みながら私は頷く。

「え? じゃあ、生まれ変わったのはこれが初めてじゃないってこと?」
「……多分だけど」

 多分、あれはそういう夢だったのだろう。
 目にするもの全て初めて見るものばかりだったのに、それが何なのか、何のためにあるもなのか、どう使うものなのか、夢の中の私はちゃんと知っていた。
 あれはきっと、こことは違う、ここよりももっと文明の進んだ世界。
 そしてきっと、私のもうひとつの前世の記憶。
 だとしたら、あの先生は――。

 私はユリウス先生の部屋の前で足を止める。

「開いてるかしら」

 アンナが傍らで心配そうに呟いた。
 ――先生の部屋でちょっと確認したいことがあると朝一で寮を出た私に、アンナは戸惑いつつもついて来てくれたのだ。

「開いてなかったら、誰か他の先生にお願いして……」

 言いながら手を掛けると扉は簡単に開いた。鍵は掛かっていなかったのだ。

「先生、余程急いでいたのかしらね」

 私たちは周囲を見回し誰も見ていないことを確認して主不在の部屋に入った。
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