怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
10.三人家族へ

拓海と想いを通じあわせてから二ヶ月が経った。

昼間は残暑が厳しいが夕方には鈴虫が鳴き、少しずつ秋の訪れを感じられる。

湊人とふたりで住んでいたアパートは解約し、本当の意味での三人暮らしが始まった。

拓海と話し合い、入籍はやはり沙綾の誕生日にしようと決めたので来月までお預けとなり、湊人にはそれまでの間に拓海がパパなのだと少しずつ理解してもらおうと思っている。

結婚式についてはその後に追々考えようという結論に至った。

沙綾が心配していた拓海の縁談の件は、彼が大地に連絡を取り、すべて事情を説明した上で破談にしたと聞いた。

なんでも同じ頃、相手方からも断りの連絡があったという。

ホッとしたのと同時に、拓海のような男性との縁談を断る女性とは一体どんな人なのだろうと一縷の興味が湧いたが、もう自分とは関わることのない相手だと安心して忘れることにした。

湊人は二歳二ヶ月となり、相変わらず戦隊ヒーローも好きだが、最近は絵本の読み聞かせを好み、会話力も理解力も増してきた。できることも多くなり、食事や着替えなどはひとりでしたがる。

著しい成長が嬉しく感じられるものの、それに伴い困った事態にもなっていた。

「やだの! おふろしないの!」
「お風呂嫌なんだね。でも湊人、今日公園でいっぱい汗かいたよ? きれいにしようよ」
「やだの!」

日曜の夜。夕食を終えてお風呂の準備を促そうとしたところ、頑なにキッズスペースから動こうとしない湊人にため息が漏れそうになる。

二歳を過ぎた頃にやってくる、通称“魔のイヤイヤ期”。

自我が芽生え自己主張が激しくなり、なにをするにも「いやだ」と泣き叫んで親の頭を悩ませる。

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