甘い恋をおしえて
佑貴


***


(今日も忙しかったな)

宮川佑貴が自分のデスクの上を片付けていたら、秘書の野村から声が掛かった。

「部長、今日は定時でお帰りですか?」
「ああ、明日の会議までにやっておきたいことがあるんだ」
「そうですか。お疲れさまです」
「じゃあ、お先に」

佑貴が働いているのは、宮川商事の海外事業部だ。
傘下にいくつか子会社があるが、宮川家の本拠地ともいえる会社で部長職を務めている。
まだ二十代の若さだから親の七光りと言われないよう、彼なりに必死で働いている。
ホッとため息をついて、帰宅する社員で混雑したエレベーターに乗る。
夕方六時過ぎに佑貴と乗り合わせるのが珍しいからか、一階のロッカー室に向かう女子社員から熱い視線を感じる。

「部長、今日はもうお帰りですか?」

中のひとりが話しかけてきた。

「ああ」
「よろしかったら、経理部の女性メンバーと飲みに行きません?」
「いや、今日は用事があるんだ。すまない」

無表情のまま、あっさりと佑貴は断った。

「いえ、またいつかご一緒させてくださいね」

ちょうどエレベーターが一階に着いた。

「ああ、いつかね。お疲れ」

背を向けて歩き始めた佑貴を見送る女子社員たちから、ため息が漏れる。

「いつも素敵だね~」
「颯爽と歩く姿、絵になるわ!」
「部長が独身だったらいいのに」
「あら、既婚者でも私は構わないわ」
「あのクールな部長の奥様ってどんな方なんだろうね~」

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