年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
19.
 紫音さんが睦月さんに抱きついた時、正直ちょっとだけ嫉妬した。並んでいる2人はとってもお似合いだったから。でも、そんなモヤモヤした気持ちはすぐになくなっていた。
 睦月さんが……本当にお父さんみたいな顔をして紫音さんと話をしていたから。あまりにも微笑ましくって、つい笑いが込み上げてしまった。

 そして不意に思った。最近まで、睦月さんは私のことを娘みたいに思っているのだと思っていたけど、実際は違ったんだ……と紫音さんに見せていた顔を見て思った。

「どうかした? 俺の顔に何か付いてる?」

 前を向いて車を運転している睦月さんは、笑いながらそんなことを言った。考え事をしながら睦月さんの横顔を眺めていたのがバレバレだったみたいだ。

「えっ? な、なんでもないです!」

 恥ずかしくなって慌てて前を向くと、前の信号が黄色から赤に変わるのが見えた。前の車に倣って車を停めると、睦月さんはシフトレバーを切り替えいる。

「さっちゃん」

 そう呼びかけられてその方向を向くと、もうそこには睦月さんの顔があり「あ……」と言う声も唇の中に吸い込まれていった。

「やっと触れられた」

 私の唇から離れると、睦月さんは満面の笑みを浮かべてそう言う。私はと言うと、目を丸くしながらも顔が火照っていくのを感じていた。
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