年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
24.
 あの日は、母と一緒に過ごした最後の誕生日だった。

 夜中、目が覚めてしまい自分の部屋のあった2階から1階に降りると、リビングから灯りが漏れていた。

「睦月と朔のお嫁さんが見られないのは残念ね。きっと2人とも可愛らしいお嬢さんと結婚してくれるわね」

 そっと中の様子を見ると、テーブルに向かい合って座る父と母の姿があった。そして、母は笑いながらそんなことを言って、"これ"を手にした。

「そんなこと言うな。……きっと見られるさ……」

 母とは対照的な暗く沈んだ父の声がして、俺はその場から逃げるようにそこを離れた。

 そして、母は次の誕生日を迎えることなく亡くなった。母はあの時きっと、もう先が長くないのを察していたのだと思う。
 母のお葬式の日、父も俺も泣くことが出来なかった。まだ小さかった朔だけが、俺達の代わりとばかりにワンワン泣いていたのを今でもよく覚えている。
 その日の夜。父は、母に渡した最後のプレゼントを取り出して紅茶を淹れた。

「これが最後になるなら、もっと早く渡せばよかったな……」

 力なくそう言って、父はそれを持ち上げ口に運んだ。時折、溢れる雫が紅茶に吸い込まれていくのを、俺はただ見つめていた。
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