年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
29.
 真琴からの連絡を聞いたとき、私の頭は真っ白になっていた。

『父ちゃんが事故って救急病院に運ばれたって!』

 真琴はその後も話を続けていたが、始めての、事故という言葉にショックを受けて、その後は全く耳に届かなかった。睦月さんが来てくれなかったら、きっと私は途方に暮れていただろう。

 明日帰ろうと睦月さんは言ってくれて、私はようやく落ち着いてきた。かんちゃんをいつも預かってくれるサロンにダメ元で連絡を入れたら、快く預かってくれることになり、それを睦月さんに伝えた。

「よかった。こっちも午前中の飛行機も車の手配もできた。今日は早く休んだほうがいいね」

 睦月さんは穏やかにそう言った。

 いつもそうだ。いつも睦月さんはこうやって救ってくれる。心の底から、睦月さんに出会えて良かった。そう思うと勝手に涙が溢れてきてしまう。そんな私を睦月さんは静かに抱きしめて、私はその背中にギュッと手を回した。

「睦月さん……。ありがとう。私、睦月さんがいなかったらこんなに冷静でいられなかった……」
「さっちゃんの役に立てるなら……俺はなんだってするよ?」

 私の頭を抱えるようにして、睦月さんは私の頭を撫でてくれる。そうされるだけで、スッと心が落ち着いてくるのがわかる。

「先にお風呂に入っておいで? 明日は早めに出ないといけないしね? 俺は何か飲むもの作っとくよ。それと……」

 高すぎず、低すぎない睦月さんの心地よい声が一旦そこで途切れると、私は顔を上げた。
 そこには、優しく私を見ている瞳がある。何も言わなくても、私のことを大事だと訴えかけているその眼差しに、ただ愛しさだけが込み上がってくる。

「……渡しておきたいものがあるんだ」
「渡しておきたい?」
「うん。もっと後にしようと思ったけど、やっぱり今がいいかな?って」

 なんなのか想像はつかないけど、柔らかく微笑んでいる睦月さんに、私は頷いて「うん。わかった」と返事をした。
< 449 / 611 >

この作品をシェア

pagetop