年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
34.
 学さんの後ろに続き外に出ると、真琴君の車の隣に停まる白い軽自動車の前で「ほらっ」と鍵が飛んできた。
 それを受け取りロックを解除していると、学さんは助手席側に回った。

 運転席に乗り込むと、俺はシートとミラーを調整する。助手席では学さんがシートを一番後ろまで下げていた。

「どこへ向かえばいいんでしょうか?」

 シートベルトを付け終えた学さんに尋ねると、「道路を出たらまず左だ」とぶっきらぼうに返ってきた。

 俺はエンジンをかけそれに従う。学さんは相変わらず不機嫌そうに「そこを左」とか「次の信号右」くらいしか言わない。走った時間はほんの5分ほどだと思う。見覚えのある場所に出ると、もしかして? と頭をよぎる。

「あの看板出てるところに入ってくれ」

 そう言われたのは、さっちゃんにとっても、俺にとっても、そして、学さんにとっても、きっと思い出の場所なのだろう。そんなことを思いながら、その場所に車を滑らせた。

 連休の昼下がり。前に来た時より車は多く、駐車場の一番奥に空きを見つけてそこに車を停めた。学さんは降りようとせず、黙って窓を開ける。潮の香りが漂い、遠くから波の音が聞こえてきた。
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