虜にさせてみて?
二人の出会い
約一ヶ月前、響君に出会った時の事から話し始めた。
響君はフロントのマネージャーの甥っ子。つまり、紹介で入る事になったらしい。
正社員で入った私と美奈は調理業務以外の職場研修があった。
響君は中途採用だから研修はなく、最初から職場は決まっていた。
フロントのマネージャーは配属が決まる前に研修でお世話になって以来、私を気にかけてくれている。
『甥っ子が働く事になったから、休みなら面倒見て貰えないか』とマネージャーから頼まれたのが事の始まり。
オーベルジュの事務所に着いた響君を迎えに行き、案内と買い出しに行く予定をしていた。
「響君って言うんだ?どうぞ、よろしくね?私の名前は、”深澤ひより”だよ」
明るく自己紹介をしたら、響君は……。
「へぇ……」
名前も自分から名乗らないし、愛想が全くないから溜め息をついてしまう。
第一印象はカッコイイけれど、無愛想で冷たそうな人だなって思った……。
宅急便で送った響君の荷物はオーベルジュの事務所に届くようになっていたので、一緒に取りに行く事に…。
寮には住み込みで同じ場所で働く管理人がいるけれど、昼間は仕事で不在の為、オーベルジュの事務所に配送される。
従業員のほとんどは住み込みで働いている。
私も響君も寮暮らし。事務所に荷物を取りに行くと、響君の叔父、マネージャーが居た。
「おーっ! 響、ひよりちゃんは可愛いだろう!」
マネージャーは響君を見るなり、そんな事を言った。
マネージャーはいつも『可愛い、可愛い』と言うが、嬉しくも有り、恥ずかしくも有り、周りの視線も気にかかる。
「お疲れ様です、マネージャー」
「悪いね、休みだったのに……」
「いいんですよ、する事なくて暇なんですから」
響君は事務所の皆に挨拶をして荷物を受け取り、寮に案内した後に荷物を部屋に置いた。
年期が入っていて、風呂、洗面所、洗濯機、トイレは共同。
そんな寮を見て、響君が落ち込んでいる様子。