虜にさせてみて?
近付く心
世間は夏休みに入り、高原のオーベルジュで働く私達は忙しく、朝早くから夜遅くまで慌ただしい生活を送っていた。

響とは友達以上恋人未満な関係で変わりはなく、駿からの連絡もなく、穏やかと言えば穏やかな毎日。

そんなある日の事。

「ハローッ、響、元気だった?」

謎の美人登場!

夏休み中はラウンジも忙しく毎日、二人体制。

チェックインが始まり、少し落ち着いたかなという時に『響』と名前を呼ぶ美人が来た。

「あ、こんにちは。響の愛人の百合子です」

「百合子っ!」

愛人? 百合子?

どこかで聞いた名前だよね?

しかし、お母さんにしちゃ若いすぎるし、誰?

思い出した、この人、もしかして……。

「水野君の働いていたバーのマスターの奥様でしょうか?」

以前、響が電話してた人だよね?

明るくて綺麗な人。

私と全然違うや…。

「うん、そうだよ。でも、響は愛人だからね」

「こらっ、百合! 駄目でしょ、そんな事言ったら!すみません、はじめまして、百合子の夫で椎名と申します。響がいつもお世話になっております」

百合子さんが私をからかっていた(と思う)時に後ろからやって来たのは、多分、マスターだと思う。

この方、何となくだけれども、駿に雰囲気が似てるな。

「ふぅーん、深澤 ひよりちゃんかぁ。可愛いね、響。響は素直じゃないけど、仲良くしてあげてね」

マスターの椎名さんの挨拶の後に、私のネームを見て優しく微笑んだ百合子さん。

「はじめまして、こちらこそ、水野君にはお世話になっております。皆、水野君の事を頼りにしていて慕っていますよ」

「やるじゃん、響!」

「叩くなよっ」

私の言葉を聞いて響の背中を叩いた百合子さんに対して、響がはにかみながら柔らかな笑顔を見せた。

見た時のない満面の笑顔。

マスターと百合子さんと話している響は、とても楽しそうで私は一人ぼっちのように思えた。
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