虜にさせてみて?
過去とトラウマ
響が話を始めた。

私から目線は反らして、外の暗闇を見ながら。

「俺さ、大学受験に失敗してムシャクシャしてて……」

「うん」

「逆ナンしてくる奴と……」

「……うん」

私は相槌を打ちながら聞いた。

響はため息を一つついて、「無作為に、してた。それから、百合子に会って、好きになって、本当に好きじゃなきゃ、しちゃいけないと思った」と言った。

「うん。それはつまり、響は私の事を本当に好きじゃないって事?」

相槌以外の言葉を発した私。

響に否定して欲しい。違うと言って。

「だから、そうじゃないって! ひよりが、嫌じゃないか? って事!」

「嫌じゃないよ。それに傷だらけなのは私の方だよ」

”駿”に恋をして、笑って、泣いて、嬉しかった事も、傷ついた心も全てを包み込んでくれるのは響だけ。

「私、駿との事でいっぱい傷ついた。でもね、駿の事がなかったら響に近付けなかったし……今は駿を許せるよ」

駿との最後、私の心はボロボロになった。

見た目が軽そうな響に忘れさせてもらおうと思ってた。

実際は、響は軽くなんかなくて不器用だけど、優しくて、思いやりがあって、他人に気を使う人で大好きだよ。

「過去にこだわるのが嫌いなのは、響でしょ?
響の過去に何があっても受け止める。大丈夫。私こそ、ごめんね」
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