虜にさせてみて?
ノイズと思えたら……
勢いよく急発進する車。
カツーンッていう鈍い音が、車の後ろから響いた。
「アイツ、石投げたな」
アイツ? 響が投げたのかな?
そういえば私、スマホもお財布も送迎用のマイクロバスの中に置き去りにしてしまった。
どうしたら良いのだろうか?
誰にも連絡をとる手段がない。
駿は何が目的なんだろう?
「ひより、そう怖い顔しないでよ? 会いたかったって言ったら、駄目?」
私は何も言わずに、しかめっ面をして隣に大人しく乗っていた。
信号待ちの時に車から降りようとしたけれど、夜だし歩くのも暗いし、遠いから躊躇してしまう。
バックミラーで私の様子を確認してから、髪をクシャッて撫でた。
久しぶりに聞いた声。触れられた手。
『会いたい』と言ってくれた気持ち。
――偽りだと知っているのに、何故か胸が跳びはねる。
ドキン、ドキン。
次第に胸が高鳴り、鼓動が早くなる。
まだ忘れられていないのかな?
「響君と付き合ってるの? ふふっ、響君はひよりが大好きだよねぇ」
「……うん」
「ひよりも響君、好き?」
「えっ? うん」
一瞬、戸惑ってしまった私。
駿には”響が好き”と言いたくなかった。
「俺ね、近い内に東京に帰ろうかと思って。今日言うつもりじゃなかったんだけど、たまたま、ひよりを見つけたから。勝手だけど、行く前にひよりに会いたかった。今日、会えて良かったよ」
「……そう?」
「んー、一緒に来る?東京に」
「えっ?」
更に胸が高鳴る。
ごめん、響。
私はまだ駿が忘れられないのかも?
本当に嫌だ、こんな自分。
大嫌いだ、こんな自分。