まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「はぁ」

 夏が終わろうとしている。ジリジリと鳴く蝉の声もいつ聞き納めになるかと季節を感じながら縁側に足を投げ出した。

 最近一哉さんはあまり家には帰ってこない。月島リゾートのウエディング事業が軌道に乗り早速二店舗目を出すと決まったことで、毎日のように出張に出ていた。

「結さんもお寂しいですね。せっかく新婚だっていうのに」
「彩乃ちゃん!」

 ひとりぼんやりしていたら、いつの間にか隣に座っていた彩乃ちゃんに驚き体がのけぞった。

 ここに嫁いできたときからずっと家政婦として側にいてくれた彼女とは、年が近いこともあり今では友達のような関係になっている。

「この四ヶ月、帰ってきたのは月に数回程度ですよ? 週末は一哉さんのお誕生日だって言うのに帰れないって言うじゃないですか」

 持参した大福を頬張りながら足をぶらぶらさせてムッとしたようにお茶をすする。口の周りを白くさせ口いっぱいに詰め込む横顔を見たらふっと笑みが溢れた。

「そうだ! いっそ結さん行ってらしたらどうですか?」

 閃いたと言わんばかりにパッと顔を明るくしてこちらを見た。

「夏休みもとってませんし、若葉様もきっと許してくださいますよ」
「どうだろう、来月の式典のこともあるし」
「絶対そうしてください!」

 半ば強引に言い残して母家の方へと戻っていく。呆気にとられる私はお盆に残った大福を口に入れ、雲ひとつない空を見上げた。

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