色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ

どちら様ですか

 子供相手にピアノを教えていると、
 忠実に言う事を聞いてくれる子と、全く聞く耳を持たない子の2パターンに分かれる。
 言う事を聞く子を教えるときは、常にその子の親が部屋の片隅で目を光らせてレッスンを見学しているから、子供は萎縮し、私も緊張してしまう。

 生徒の中では一番、言う事を聞かないイチゴが生徒になって2ヵ月。
 彼女は「はあ・・・」と深いため息をついてピアノを弾き終えた。
 見た目は子役タレントばりに可愛く美しく、芸能人のようなオーラを出している彼女がため息をついて「さいあく…」と言い出したので、心配を通り越して、むっとした。
 最悪というのは、私に言った言葉か。
「どうかしたの?」
 務めて、優しく言ったつもりだが声が低くなった。

「ただいまー」

 男性の声が聞こえると。
「さいあく」
 とイチゴが呟いた。
 ただいま…と言う男性と言えば、彼女のお兄さんだろうか?
 2ヵ月前、一度だけ彼女のお兄さんが住んでいるお城…屋敷に足を運んだことがある。
 勝手にピアノのレッスン内容を進めてはまずいと思い、会いに行った。
 イチゴとは10歳ほど離れたお兄さんは見てすぐに、イチゴと兄弟とわかった。
 リスのようなつぶらな瞳はイチゴとそっくりで。
 忙しそうに仕事をしていて。
 レッスン内容を報告しようとしたら、「そっちに任せます」とだけ言われて追い返された。

 妹のことだというのに無関心なのか? 本当に忙しいからなのか。
 イチゴのお兄さんによる私に対しての態度は冷たかった。
「ナイトお兄さんだっけ」
 前にシナモンが「お兄様の名前はナイトだそうですよ」と言っていたのを思い出す。
 彼女の呼び名が「イチゴ」だから、お兄さんの名前もフルーツの名前なのかと思っていたので、「へえ~、パイナップルじゃないんだ」と呟いたのを覚えている。

「…ナイト兄様なわけないじゃん。ここには来ないよ」
 顔を歪めたイチゴの言葉に「え?」と声を漏らすと。
 ガチャっと結構、乱暴にドアが開いた。

「なんだよ、いるなら迎えに来いよ」

 声のするほうの主を見て、誰だよ…と睨んでしまった。
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