【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)

五十九

「……エルドラッド皇太子殿下は、図星で言い返せませんわよね」

 エルドラッドはリリアの部屋に慌ててきたのだろう、執事と側近だけを連れて護衛の騎士を連れずにきたのが幸い。

 いまのうちに、毒草を消してグルの転移魔法でとっとと逃げる。

「もう、エルドラッド皇太子殿下と話すことはないですわ。グル、グレちゃんいきましょう」

「ああ、いこう。あれ? 兄貴? 兄貴がいない」

 さっきまで、そばにいたグレの姿が見えない、グルが呼ぶと隣の部屋から声が聞こえた。
 
〈オレはとなりの部屋にいるぞ。その子が使った道具と集めていた毒草は全て消したよ……結構な量の毒草があったからたいへんだった……グルのポーションあとでちょうだい〉

「わかったよ。兄貴、ご苦労さま。これでシルワ様に頼まれた用事は終わったな……俺たちの家に帰ろう」

「ええ、かえりましょう。グル、グレちゃん」

〈帰ろう、村のみんなもオレ達の帰りを待っている〉

 部屋をあとにするまえ「さようなら」の意味も込めて、エルドラッドに向けシャツをスカートに見立ててもって頭を下げた。

 ――二度と会わない。

「ま、待てエルモ。どうしてだ? あんなになりたかった王妃にもなれるのだぞ。この機会を逃したらもう二度となれない」

 王妃? と。どんな言葉にもなびかないエルモに、エルドラッドは不思議そうな瞳を向けてくる。

 あなたにはわからないでしょう。愛していた人に冷たくされて、罵られて、突き放された人の気持ちが。

「エルモ、大丈夫か?」

 心配そうに見つめるグルに微笑んで、手をにぎる。
 
 最愛の人。
 離れたくない人。
 これから一緒に歩く人。
 
< 173 / 179 >

この作品をシェア

pagetop