【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)

十二(グル)

 昨夜。グルは森の中で木に背を預けて、ひとり月を見上げていた。

「もうすぐ満月か……」

 明日か明後日にでも月は満ちて丸くなる。
 俺はエルモのことをどうするか考えていた。

 ーーこのとき。

〔グルさん、おやすみなさい〕

 エルモに渡していた通話カードから彼女の声が聞こえた。

〔おやすみ、エルモ〕

 寝る前のあいさつだけで終わるかと思った通話はつづき、エルモは街のパン屋で働くことを伝えた。

 二人で他愛もない話をして。
 もう一度「おやすみ」と通話はきれた。

「…………」

 いつもなら一人でも平気な夜が寂しく思えた。ほんの数時間はなれただけで俺はエルモに会いたくなる。

(こんな気持ちは始めだ、みんなはこんな時どうする?)

 押して押しまくるのか。そんなことをしてエルモに嫌われてしまったら、俺は立ち上がることができなくなる。

 いや……その前に俺のことを知ると、エルモは逃げて行くかもしれない。

 いや、前にばっちゃんはそうならないと言ったけど……俺はその言葉を信じたい。


「よし、家に帰ろう」

 この森に兄はいないし。
 たまに悲しい瞳をするエルモを守り、抱きしめて眠りたい。


 ――エルモがくれる安らぎは心地よい。
 ――目覚めるとエルモが側にいる、この幸せを手放したくはない。


「兄貴もあの子に裏切られる前は、こんな気持ちだったのかな?」
< 39 / 179 >

この作品をシェア

pagetop