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3. 駿介のお世話係

(1)

 お腹が痛い。痛いというか、なんというか、ムズムズと変な感覚がして気持ちが悪い。
 それもこれも、全部駿介のせいだ、と怒りに任せてキーボードを叩けば、風吹に、こら、と丸めた書類で頭を叩かれた。

「キーボードが壊れる」

「風吹さん……、それ、痛いです」

 コピー用紙ひと束分はありそうな書類は、かなりの重量がある。それで叩かれれば、実際のところ、かなり痛い。

「薬持ってこようか?」

「薬?」

「首。痒くない?」

 風吹が千真のうなじに触れた瞬間、ぴしゃりとオフィスの空気が凍りついた。千真は様子がおかしいことに気づいたが、風吹は気づいていないようで、話を続ける。

「赤くなってるけど、虫刺されじゃないの?」

「え?」

 言われるまま、千真はうなじに触れてみるが、触った感じはどうもない。赤くなっているというから、腫れているのかと思ったが、どうやらそんなことはないようだ。

「少しは気をつかってあげてくださいよ、財田さん」

 首を傾げた千真のデスクに、そっと絆創膏が置かれる。顔を上げれば、キラキラエフェクトのかかった旭がそこにいた。朝から縁起がいい。

「みんな、気づいてて無視してたのに」

「なんで無視するのよ? 薬くらい、持ってきてあげればいいじゃないの」

 どうしてそんな意地悪をするのか、と納得いかない様子で、風吹はオフィスを見回す。いじめがあるのなら、即刻、対処しなければならない。
 けれどオフィスのみんなは、気まずそうに視線を泳がせ、風吹と目を合わせようとしない。それは、いじめからの無視というには、いささか生温いものがあり、風吹はなおも首を傾げた。

「デキる女なんだから、気づいてくださいよ」

 旭は残念そうに眉尻を下げたあと、ぼそりと風吹に耳打ちする。
 その後、ぼっと顔を真っ赤に染め上げた風吹は、旭が置いた絆創膏を手に取ると、少し乱暴に、ぴしゃりと千真のうなじに貼りつけた。

「なんであんた、そんな髪型してきてるのよ!?」

「えええ?」

 紛らわしい、と言い捨て、プリプリとお尻に色気を漂わせながら自分のデスクに戻っていく風吹を見ながら、千真はまだ混乱の中にいて、疑問符が頭の中を走り回っている。ポニーテールにしているのはいつものことなのに、今さら? という気がしないでもない。

 ふわり、香水の匂いがして振り向けば、思っていた以上に近い旭の顔があり、心臓が跳ねた。
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