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5. 報復の差出人

(1)

「賀永さん」

 ハイネックで首元を隠している千真は、名前を呼ばれて振り向いた。まさに、ハイネックを着て出勤したほうがいいと言ってくれた人である。
 あのひとことがなければ、千真はきっとなにも気づかず、いつもどおりに出勤して、また風吹に怒られる羽目になっていたかもしれない。首の赤みなんて、千真の経験上、虫刺され以外に想像なんてできない。

「ごめん、今日、駿介が夕方から病院なんだけど、付き添ってやってくれる? できれば、飯も食わせてやって」

「それは、大丈夫ですけど、えっと……」

「なに? どうかした?」

 旭に言うべきか悩み、結局、いいえ、と頭を振った。

「判りました」

「じゃあ、お願いね」

 走り去る旭の背中に頭を下げて、千真は嘆息する。服の上から無意識に腕を撫で、慌ててそれをはずした。それでもやっぱり気になって、ぎゅっと握ってしまう。

 昨日、千真が駿介と共に帰宅したことは、当然、部内の中で広がり、社内でも知らない人はいないこととなっていた。朝一、千真が別部署の女子社員に呼び出され、報復を受けたことを旭に言えるはずもない。

 千真は、キュッと唇を噛んで、下を向いた。

 行きたくありません。いや、違う。付き添うことは、別に構わない。
 実際のところ、駿介に怪我を負わせたのは千真なのだから、当然、付き添えと言われれば、断ることなんてできるはずがない。

 首筋に手を添えて、息を吐く。本当に、今日はハイネックを着てきて正解だった。駿介と一緒に帰宅したのを知られている中で、こんな痕をつけて堂々と出社してしまっていたらと思うと、ゾッとする。
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