@love.com

(2)

「落ち着いたか?」

「……はい」

 ぐすっと鼻をすすれば、駿介はハンカチを持っていなかったのか、高そうなコートの袖を、ごしごしと千真に擦りつけてくる。まだ化粧も落としていなかった千真の顔は、涙でボロボロだ。

「コートが汚れます」

「いい。それより、なにがあった?」

 千真は、高そうなコートを汚してはいけないと駿介の腕を退けようとするが、駿介は千真の腰を引き寄せ、距離を縮めてくる。
 あらかた涙を拭かれると、そのまま肩に凭れさせてくれた。

 ひとしきり泣いて落ち着いたせいで、千真はそこが玄関の床であることにようやく気づきいた。
 ちなみに千真のお尻は駿介の太腿の上に乗っており、まったく冷たくない。駿介は直接、床に腰を下ろしているので、相当冷えるはずなのだが。

「すみません、こんなところで。奥に行きましょう?」

「誘ってんのか?」

「違います!」

 いい人だなんて思った千真がバカだった。
 なんの用事で来たのかは判らないが、用件を聞くでもなく、いきなり泣き崩れた千真のそばにいてくれ、おまけに千真が冷えないよう、心配りもしてくれていたのに。
 優しいのか意地悪なのか、判らなくなる。

 千真は立ち上がると、奥へ進んだ。ワンルームなので、玄関の正面にベッドが置いてあるのが丸見えだ。その足元にテレビを置いて、真ん中にテーブルを置いたらほかにスペースがない。
 千真は実家から引っ越してくるとき、必要最低限のものだけ持って家を出た。なにかあれば、取りに帰れない距離ではない。

「そんな格好してるから、誘ってんのかと思った」

 言われて、駿介の視線を追えば、駿介は千真の胸元を見ていた。お風呂に入ろうとハイネックを脱いでブラジャーだけになった、千真の胸元を。

「おまえ、着痩せするんだな。結構デカくて、ビビった」
「!?」

 見ているだけでも問題があるのに、あろうことか、駿介は言いながら、確認するように千真の胸に触れてくる。
 ブラシャーがあるとはいえ、当然、直接肌に触れる部分もあるというのに、なにを考えているのか。セクハラで訴えられても、文句は言えないはずである。

「こ、これは、たまたま……」

「タマタマ? 見たいのか?」

「なにをですか!?」
< 40 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop