双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
5.優しい時間
 ――十二月。
 すっかり冬めいて、毎日寒い中、変わらず仕事に育児に家事にと追われている。
 もっとも、家事は家族で分担しているだけ、まだ楽させてもらっているけれど。
 私と雄吾さんは、あれから約二カ月経った今も、別居のまま過ごしていた。
 今後の生活について、互いの折り合いがつかなかったわけではない。私たちもいい大人だから、冷静になって現実的に話し合いを重ねた結果だ。
 雄吾さんの想いを受け取ったのは十月半ば。その後、雄吾さんはまず私の両親へ挨拶にやってきた。
 これまで私に根掘り葉掘り聞かないでいてくれた両親だから、かいつまんで説明したとはいえ、私たちの話に終始驚いていた。
 人当たりはよく、礼儀正しい立派な肩書きを持つ雄吾さんを前にして、なぜ彼といざこざが起きたのかとでも思ったらしく、両親は狐につままれたような顔をしていた。
 どこか腑に落ちない様子だった両親の迷いを払拭する手伝いをしてくれたのは、ほかでもない海斗。
 海斗は仕事柄なのか、とても話が上手で説得力があるから、とても頼りになった。
 そうして、古関家は一段落したのちに考えるのは楢崎家。しかし、そう思っていたのは私だけだったらしく、雄吾さんは今後の私たちの生活を考えようと提案してくれた。

 わだかまりが解け、想いが通じ合った今、私の気持ちは彼と一緒に暮らすことを想定した。そのためには、仕事の都合をつけなければならない。
 雄吾さんの立場を考えたら、私が歩み寄るのがベストだと考えるのは自然なことで、特に妬みや悔しさなどはなかった。
 ただ、私もずっとお世話になってきた会社だから、退職するにしても礼儀を尽くしたい。
 雄吾さんにそう相談すると、彼は「当然だよ」と私の意思を尊重してくれた。
 私の勤める保険セールス業界では、一般的に十一月が一、二を競うほど多忙な月で、到底退職の相談をできるタイミングではない。続く十二月も年末で忙しく、結局私は年明けの一月いっぱいで会社を辞めることとなった。
 残すは、雄吾さんのご両親との対面のみ――。

 十二月に入った日曜日。私は久しぶりに東京にやってきていた。
 時々社員研修などで東京本社に来たりはしていたから、東京自体に緊張してはいないのだけれど、別の緊張が大きすぎてすでに胃が痛い。雄吾さんの実家があまりに荘厳な一戸建てで、敷地に入る前には胃だけでなく胸まで苦しく感じていた。
「大丈夫? 昨日まで仕事忙しかったんだろう? やっぱり別日がよさそうなら今からでも」
「平気。むしろ、もうずーっと気になっていたから早い方がいいの」
 今日はいよいよ雄吾さんのご両親との初対面。
 どんな状況になるかわからなかったし、とても大事な話し合いになるのはわかっているから、穂貴と詩穂は実家に預けてきた。
 しかも、もう家の前まで来ているんだから。ドキドキはしているけれど、今日の予定が決まった日からずっと頭の中でシミュレーションしてきたし。仕事の延長だというくらいの気持ちで臨めばいい。
 私が即答で断ると、雄吾さんは観察するように私の顔をジーッと見てくる。
 私はふいっと顔を背け、ぽつりと返した。
「ただ緊張しているだけ」
 すると、雄吾さんが苦笑する。
「事前に少し話はしてあるから、そんなに硬くならなくても......って、実際に挨拶するまではなにを言っても気休めにしかならなそうだな」
 今雄吾さんが言った通り、すでに私や子どもたちの存在を伝えてくれてはいるらしい。けれども、息子である雄吾さんの前での反応と、これまで一度も関わり合いのなかった他人の私の前では反応が違うことだってあるかもしれない。
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