密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
5 きみの幸せのために 透真Side
春香のもとにセレクトショップの元店長、百瀬の妻が接触してきてから十日ほど経ったある日。
朝から雪が降りそうなほど寒く、マンションを出るとき春香は沈鬱な表情だった。

「春香、寒くないか?」
「大丈夫です、このコートすごく温かいんですよ」

黒いスタンドカラーコートを羽織った春香は、大切そうに腹部に手をやると前のボタンを閉めて微笑む。緊張から顔が引きつっているが、無理して笑ったようだった。

百瀬の妻に弁護士を交えて話したいと打診したが、まだ決めていないとのことで今日は三人で会う運びとなった。

春香の気が乗らないのは無理もない。
身重でストレスのかかりやすい時期にわざわざ出向かなくとも、俺がひとりで彼女と話すと提案したのだが、春香は首を縦には振らなかった。
自分のことは自分で決着をつけると言い張って。

そんな春香をエスコートし、地下駐車場で車の助手席に乗せる。
春香はバッグの中からミントキャンディーを取り出し、口に入れた。つわりが幾分楽になるらしく、最近頻繁に食べている。

強張る横顔が気になりときどき横目で確認しながら、向かったのは君塚不動産が所有するホテル一階のラウンジ。

春香にはノンカフェインのルイボスティーを、俺自身はコーヒーを注文し、一番奥の席で彼女を待った。
ときおりラウンジの入口を目視し、落ち着かない様子の春香に声をかける。

「大丈夫だ。なにがあっても俺が守る」

気休めにしか聞こえないないかもしれない。けれど、紛れもなく本心だった。

「ありがとうございます。透真さんがいてくださって心強いです」

春香は片頬笑んだ。

弁護士に相談もせず、慰謝料請求をするなどと主張しているのは、亭主が春香と会っていたと知った百瀬の妻が勢い任せに証拠をちらつかせてきたのではないかと推察できる。

しかし春香本人は、証拠がなんなのか、また不貞行為がなくても不倫とみなされると伝えられた件が気がかりらしい。
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