ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
プロローグ 運命の一夜

「っ、ふ……っっぅ」

強引に唇を塞がれたまま、もつれあうようにラグジュアリーな室内を移動して――彼のものだろう上品なシプレ系の香りに陶然とする間もなく、私の身体はキングサイズのベッドの上に倒れ込んだ。

覆いかぶさってきた彼が、すぐに不埒な手を伸ばす。

余りに手慣れたその仕草と自分の経験不足に焦りながら、彼の下でジタバタと不格好に足掻いた。

「っ、はっ……あ、のっ……ちょ、待っ……」

嵐に飲まれるような感覚が怖くてあげた抗議の声は、降ってきたキスに吸い込まれてしまう。

ぬるり、と咥内に感じた自分のものではない濡れた感触に、つと身体が強張った。

驚いたのは一瞬で、すぐに全身がくたりと脱力していく。

「、っぁ……んん、」

こんなに深くて濃くて、気持ちいいキス、誰ともしたことない。
きっと彼が上手いからだ。

“食べられてるみたいな”――小説の中だけの知識だったけど、こういうことかと靄のかかった頭でぼうっと考えた。

さっきまで飲んでいたワインのせいだろうか。
それとも、交じり合う唾液に媚薬でも入っているのか。

どこもかしこも、訳も分からず熱く疼いて、自分のものじゃないみたい。

はしたなく膝を擦り合わせて熱を逃がそうとする私に気づいたのか、彼がふと、動きを止めた。
普段は凛々しく直線的に結ばれる唇が、ふわりと弧を描いているのが見える。

「オレのキス、気に入ったか?」

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