ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
7. 織江side 副社長の無茶ぶりに困惑してます。

「あぁああああの、待ってください、あの、無理です。ほんとにっ」

夜遅い時間にも関わらず、たった今出勤しましたといった風にビシリとキメたコンシェルジュの前を通って高級ホテルのようなエントランスを抜け、高速エレベーターで高層階へ移動し、絨毯の敷き詰められた重厚な内廊下を通って……
ゴージャスって言葉以外が霞んでしまう彼の部屋に入っても、私はずっと同じことを言い続けていた。
もうさっきまでの心地いい酩酊感はどこかに吹っ飛んでいた。

だって、さすがにこれはおかしいでしょ、副社長と一緒に住む、なんて。

高橋さんはきっと傷つく。いくら芸能人との密会報道に目をつぶってくれる心の広い彼女だとしても、さすがに会社の部下と同居は論外だろう。
それにこんなことがもしお父さんにバレたら……

「まぁ見たまんまだが、ここがリビングダイニング。あるもの、なんでも好きに使っていいから」
「帰らせてください、お願いしますっ」

「あぁ家賃の心配はしなくていい。君からもらおうなんて思ってないから」
「それは、ありがとうございます、ってそういうことじゃなくてですねっ」

モノトーンベースの洗練されたデザイナーズ家具、ショールームみたいなピカピカのオープンキッチン……副社長ファンの一人としてはじっくり鑑賞したいのはやまやまだが、今はそれどころじゃない。

長い足でスタスタ歩き回る彼を、カルガモのヒナみたいに追いかける。

「お願いですから返してください、私のカバン! もう帰りますっ」

車を降りる際に奪われた通勤カバンを取り返そうと手を伸ばすも、あっけなく躱されてしまう。

「ここがトイレ……で、こっちがバスルーム。さっき店にいる時に予約入れておいたんだ。今からでも入っていいぞ? オレは自分の部屋についてる方を使うし」

廊下に並んだドアの一つを、彼が開ける。
ライトを反射して白く輝く大理石らしき床の脱衣所が見え……それからその向こうは浴室だろう。温かい湯気でドアが曇っていて、お湯が張られた状態であることが窺える。

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