ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
5. 貴志side 「へぇ……誰でもよかった、ね」



「へ……は? え、えぇっ!? な、い、ど、わっ……」


ひっくり返りそうな勢いでのけぞり、声にならない声でアワアワ叫ぶ山内織江。
どうやら全く気づかれてないと信じ込んでいたらしい。

真っ赤になったり泣きそうになったり……心中のパニックが顔にそのまま表れている。

こんなにいろんな表情するんだな。
いつもの大人しそうな顔をかなぐり捨てて狼狽える彼女は、オレの目にとても新鮮に映って、思わずふはっと吹き出してしまった。


「文章になってないぞ? いつわかったんだ、って聞いてるのか? んなの最初からに決まってる。最初に、バーで声をかけられたときから」

バレてないと思ってたのか、と笑い交じりに聞くと、彼女はソファから勢いよく立ち上がった。

「ももも申し訳ありませんでしたっ!!」
そのままオレへ向かってガバッと髪が床につく深さで腰を折る。

「で、できましたら、記憶を早急に永久に抹消していただきたく……」

「忘れろって? 随分勝手なことを言うんだな」

なんとなくもう少し困らせてやりたくなって意地悪く言えば、上体を戻した彼女は「も、申し訳ありませんっ」とオロオロと潤んだ瞳を揺らし、肩を縮こまらせてしまう。

あぁしまった、間違えた。
そんな顔をさせたいわけじゃない。

「別に謝ってほしいわけじゃないんだ。でも理由を聞く権利くらいはあるだろう? どうしてあんなことをした?」

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