離婚前提から 始まる恋

近づきたくて、近づけない

「おはよう、勇人」
「おはよう。お味噌汁か、いい匂いだな」
「実家からおいしそうな鯵を送ってもらったから今日は和食にしたんだけど、よかったかしら?」
「ああ」

はじめての喧嘩をした翌日は、私が自分の部屋から出ないまま勇人が出勤し、夜遅く勇人が帰って来たときには私は寝室に入ってしまっていた。
同じ家にいながら一度も顔を合わさず言葉を交わすこともなったのは結婚して初めてのことだったからこの先どうなるんだろうと心配したけれど、そこは大人な勇人と私。
次の日には普通に朝の挨拶をして一緒に朝食も食べた。
あれ以来多少のぎこちなさは残る気がするけれど、それでもいつもの日常に返ったことにホッとしている。

「食べ終わったらコーヒーを入れてくれるか?」
「ええ」

結婚当初、そんなにコーヒー好きではなかった勇人が、最近では朝食の後に必ずコーヒーを飲む。
それも、私が気に入って通っている自然食品の店で買ってきた有機珈琲。
豆にも焙煎にもこだわっている品らしく雑味がなくてすっきりした味わいで、その都度私がミルで挽き丁寧にドリップしている。
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