エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
第四章 義務といわないで
第四章 義務といわないで

 ふたりが夫婦になって三カ月が経った。最初はぎくしゃくしていたふたりだったが、最近ではふたりでいることに違和感がなくなったように思う。

 それは菜摘が恋心をごまかすのがうまくなったせいか、清貴が気を使って歩み寄るようにしてくれているおかげなのかはわからないが、周囲からは夫婦らしくみえるようになったのではないかと思う。

 しかし今日みたいに、昼休みに急に【仕事が早く終わるから食事に行こう】なんて誘われると、とたんにそわそわしてしまう。彼が夫としての義務を果たしているだけだとしても、うれしい気持ちが隠せないのだ。

(すこし落ち着かないと)

 菜摘の仕事が終わって、待ち合わせの時間まではまだ一時間程ある。それまでデパートのコスメカウンターで、似合う口紅のひとつでも調達してからデートに臨もうかと考えていると、スマートフォンに知らない番号から連絡があった。

 誰からかと考えていると、留守番電話に切り替わった。電話が切れたあと内容を確認すると、驚くべき相手からだった。

 すぐにその後、同じ電話番号からの着信があった。相手が誰だかわかっている状況で電話に出ない選択肢はなかった。

「もしもし、加美ですが」

「……ずうずうしくその名前を名乗るのね」

 のっけからの刺々しいセリフに、いい話でないことは理解した。菜摘が黙ったままでいると相手が用件を伝える。

「丸森澪です。すぐ近くのカフェにいるからすぐに来て」

「あの、でも――」

「時間は取らせません」

 そこまで言うと、そのまま電話は切れてしまった。勝手に約束させられたと言っても行かないと何らかのトラブルになるかもしれない。彼女は清貴の幼馴染で加美家ともつながりが深い。

 菜摘はため息をつきながら彼女が待っている会社近くのカフェに向かった。グレーをベースにしたモダンな雰囲気の店内。奥の席にひときわ目立つ美人が座っていたので、すぐに彼女だとわかった。

 真っ黒いテーブルの上には、アイスティが置かれていたので、注文を取りに来たスタッフに同じものを注文する。

 向かいの席に座ったものの、どうしていいのわからずにだまったままでいた。

 そして相手はずっと睨むようにして菜摘を観察している。

 丸森澪――丸森不動産の社長令嬢。自宅が清貴の実家と隣ということで小さな頃から加美家に出入りしていた。加美家の子供は清貴だけなので、義両親も澪をとてもかわいがっているようだ。過去に清貴は彼女の家庭教師をしていた時期もあったようだ。

 人形のように整った顔立ちは、周囲からの注目を集めている。時折雑誌の読者モデルもやっていると聞いても納得するほどの美しさだ。

 しかし今彼女の顔は、明らかに憎悪で歪んでいた。
< 52 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop