エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
第五章 終わりのとき


第五章 終わりのとき

 冬が深まるにつれて、ふたりの仲も少しずつ変化があった。もとからなるべく朝食を一緒にとることにしていたが、それ加えて夜もできるだけ同じテーブルにつくようになった。

 これまで外食で住ませることの多かった清貴が、菜摘の素朴な手料理を気に入ったとのことで、そうであれば作らない理由はないと、菜摘は彼の喜ぶ顔見たさに手料理を作った。

 清貴もまたそれに応えるように、彼女の料理の腕をほめた。

 月に数回はデートをし、ときには日帰り旅行と称して車でドライブに出かけた。

 そして何よりも自分が清貴の妻だと実感したのは、ふたりで年明けに予定している結婚式の準備をしているときだった。

 清貴はつねに国内外を飛び回っており相変わらず忙しくしている。

 そうなってくると打ち合わせや準備に関しては菜摘がひとりでやっていた。しかし相談すれば時間をとってくれるし招待客のリストアップなどは、早々に終わらせてくれた。

 菜摘がよりうれしかったのは、ウエディングドレスを決めるときも「俺が一番に見たいから」と言って忙しい仕事の合間に付き合ってくれた。

 あれこれ悩む菜摘に「早くしろ」なんてことは言わずに、むしろあれこれ試着しろと勧めるほどだった。

 そういう気遣いを忘れないでいてくれるおかげで、菜摘は結婚式の準備も楽しくできていた。

 ふたり衣装を身に着けてポラロイドカメラで撮った写真は、毎日こっそり見るほどに気に入っていた。

 夫は妻を気遣い、妻もまた夫のために尽くしている。

 はたから見れば完璧な夫婦そのものだった。

 しかし変わらないこともあった。ふたりの寝室はまだ別々だったし、そういう行為も子供ができやすい日に限られていた。

 それにこれまでは状況に応じて手を繋ぐことがあったり、清貴が戯れで菜摘をからかうために軽くキスをしたりすることもあったのにそういったことが一切なくなったことも、菜摘は気になっていた。

 普段の態度はどんどん優しくなっているせいで、余計にそこが気になってしまう。とはいえ、ふたりの関係は〝夫婦としては〟安定しつつあった。

 少しの不安をいだきつつも、穏やかな日々を送っていたとき、菜摘にうれしい知らせが入った。

 賢哉と桃子の間に子供ができたと連絡があったのだ。加美電機の子会社となり工場の経営も心配いらなくなったのもあり、ふたりは入籍をすませ晴れて夫婦になったのだ。
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