あと5分!【奈菜と南雲シリーズ④】


あ と ご ふーーーーん!!


左腕を確認して声なく叫びながら、駅までの道を全速力で駆ける。

肩から下げた籠バッグの紐を片手でギュッと握って、もう片方は高速で振る。サックスブルーのワンピースの裾が、膝の下でバサバサと音を立てて波打った。

やっぱあっちのタイトスカートにしなくて良かった!
って、こんなふうダッシュしやすいように選んだわけじゃないってば。
通勤の朝だってこんなに走ったことない。

(もーーっ!よりにもよって、こんな時にヒール!!)

昨日悩みに悩んで選んだ靴は、買ってからずっとシュークロゼットに眠ったままの7センチヒール。
華奢な細ヒールがデートにピッタリだと思ったけど、こんなことならいつものスポサンにすれば良かった。

そんなことばかりが頭の中で猛スピードで駆け抜けていく。速くしたいのは足であって、思考回路じゃないのに!

どうしよう、どうしよう!あと5分しかない!!


走りにくいことこの上ない靴で、力いっぱいの猛ダッシュには理由(わけ)がある。

向かっているのは最寄り駅。
5分後―――いや、もうあと4分半後に発車する電車に乗らないと、待ち合わせに間に合わないのだ。

(もっと速く!遅れちゃうーーー!!)

叫び出したいけれど、息を切らして走る私にそんな余裕はないのだ。

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