もっと求めて、欲しがって、お嬢様。
私が認めた執事
「やあ。ちょうど俺たちも2人なんだけど、良かったら一緒に踊らない?」
「踊りませんっ!じゃっ!」
「あっ、ちょっとバカエマ…!待ちなさいってば…!」
御曹司からの誘いを断って4回目。
私の隣にずっといるエマは、声をかけられるたびに立場を気にせず無礼に拒否して、私の手を引いて走る。
一応は表面上だけでも私は困惑しているけれど……それは“しているふり”だ。
今回ばかりはエマに助けられた。
私だって踊りたくない。
佐野様の姿をまだ見ていない今、こうして逃げ切れるならそうしたいと。
「ハヤセにぜったい応えるなって言われてるもん!」
「…早瀬さんも早瀬さんじゃない、それ」
「でも理沙も踊らないなんて意外っ!去年はそうじゃなかったよね?」
「…まあね。今年は私もいいのよ」
軽食が置かれているテーブルゾーン。
生演奏が響き渡るきらびやかなホールにて、私はエマと駄弁っていた。
言ってしまえば、この舞踏会は出会いの場。
伝統だなんてゴージャスに言っているけれど、自分の婚約者を自慢したり、名のある御曹司にお近づきになったり。