もっと求めて、欲しがって、お嬢様。
執事じゃなく男として




───それは、突然起こった。



「よし、終わったわ」



夕食とお風呂を終えてから課題を進めることが私の日課。

シャーペンを置いて、ぐーっと伸びをひとつして、明日の学校の準備も終えたし、あとは寝るだけ。


まだ時間は21時半を過ぎたところ。


のんびり雑誌でも読みながらティータイムでもしようかと、リビングへ向かおうとしたときだった。



「出た…っ、出ました理沙お嬢様ぁぁぁぁ…!!!」



ドタバタっ、ガシャンッ!!


キッチンから騒がしい物音がする。

あれはもう当分は昇格できなさそうね…と、慣れた息を吐いて。



「碇、なんなのよ。もう夜よ、周りのお嬢様から苦情がきたらどうするの」


「理沙お嬢様…っ、理沙お嬢様っ、」



涙目ですがりついてくる碇は、どう見ても成人済み男性とは思えない。

今日もまた賑やかな夜が始まりそうな予感だった。



「本当に見たの?」


「はい…っ!!私のうしろに影みたいなものがっ」



それを目撃した場所はキッチンではなく、お風呂場前の脱衣場にて、洗面台の鏡だったという。



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