やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
やり手CEOはお堅い秘書を手放さない


 素肌に感じるベッドシーツの質感、体を包む温かいものの心地いい重み。

 体にいつもと違う感じを覚えて目覚めた私──夏目瑠伽(28歳)は、目の前にいる人をぼーっと見つめた。

 だれ? 私、ひょっとして腕枕されてる……?

 ぼやっとしていた頭が次第にはっきりしてくると、すぐにパニックに陥った。

 待って、この人は!

 すやすやと寝息を立てている男性は間違いなく見知った人だ。けれど、目を閉じていてもわかる端正な顔立ちの彼は、決して私の恋人ではない。

 なんで? どうして、こんなことになってるの!!

 あせるけれど懸命に落ち着いて、ゆっくりと記憶を手繰り寄せる。

 昨夜は取引を模索しているメーカー社長の接待があった。

 目の前ですやすや眠っている彼と一緒に接待に臨み、お酒を飲んだことまでは覚えている。

 相手は酒造メーカーだったので、この先の取引を円滑に進めるために話は彼に任せ、私はメーカー社長自慢のお酒を勧めてくるまま飲み続けた。

 メーカー社長の機嫌を損ねないように、適度な感想を伝えて笑顔を崩さずに……そのあとの記憶がない。


< 1 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop